約物

    約物一覧(児玉幸多編『くずし字用例辞典』普及版、東京堂出版、新装1993、p.1294)

    日本思想史の文献でよく用いられる約物は大体右の通りです。現代人の目には奇異に映るかも知れませんが、少し前までは「々」(同の字点、ノマ)と同じように、当たり前に使われていました。数も少ないので、このくらいは覚えようとしなくても、すぐに自然と覚えられるでしょう。

    引用・翻刻に当たっての慣例

    右の画像にあるように、約物には様々なものがありますが、論文やレジュメで資料を翻刻・引用する場合、そのまま表記すべきものと平仮名や片仮名に改めてよいものとがあります。一部の約物を「改めてよい」というのは、「もともとの表記方法を厳守しなくとも支障がないものだから」という理由もあることはあるでしょうが、管理人が思うに、最大の理由は「ワープロソフトでフォントとして表示させ難いから」ということなのでしょう。これについては後述しますが、何れにせよ論文やレジュメの凡例には「シテ、ヨリ、コト、トモ、トキなどの合字は仮名に改めた」と表記されていることが多いです。ただしその場合でも、それ以外の同の字点、二の字点、くの字点は約物としての表記を厳守することが多いです。

    二の字点と同の字点について

    よく誤解している方がいるので解説しておきますと、二の字点と同の字点(通称ノマ)は別物であり、決して混同してはなりません

    二の字点は漢文訓読で用いられる「送り仮名」の一種であり、同の字点は同じ漢字を2つ重ねるとき2文字目に用いる「漢字の省略記号」です。そのため二の字点やノマを見付けたら、その「本来の形」はどうだったかを考えなくてはなりません。ちなみに二の字点は送り仮名ですから、漢文では原則としてこれが附いていればその上の字は訓読みし、ノマが付いていれば音読みすることになります。

    とはいえ、近世以降の和文では両者を混同して用いられることも少なくないですが、何にせよ注意は必要です。

    名称 二の字点 同の字点(ノマ)
    画像
    テキスト
    Unicode番号(U+) 303B
    (Unicode3.2でのみ表示可)
    3005
    (Unicodeでなくとも表示可)
    本来の形
    用例
    読み
    (右から順に)
    やうやう
    ますます
    ひび
    ぜんぜん
    しゅくしゅく
    どうどう

    フォントとしての表示方法

    Unicode

    漢字ではなく記号など文字一般について少々。特殊な漢字の入力方法については既に解説したとおりですが、漢字以外の特殊記号を入力するならUnicodeが便利です。

    もちろん「〒」「★」「∞」くらいならUnicodeなんか使わなくったって簡単に入力できますが、Unicodeならより厖大な種類の記号を入力することが出来ます。

    入力方法については次のページを参照してください。

    睡人亭 --> MS Wordを使いこなす --> IMEパッドの文字一覧を利用して入力する―Unicode編―

    なお、下記のUnicode番号をWord(2003+)にペーストし、その番号を選択して「Alt + X」を押すと簡単にその記号に変換されます。

    Unicode 2.0

    Unicodeで様々な文字・記号を入力できることはよく知られていますが、ここではあまり知られていない、しかし使えると結構便利な「くの字点」について解説します。レジュメなどでは全角のスラッシュなどで代用する人が多いですが、辞書登録しておけば「くのじ」で簡単に簡単に入力することができます。こんな感じに。

    Unicode 2.0+ くの字点(上半分) 同左(下半分) 同左(上半分、濁点付き)
    画像
    テキスト
    Unicode番号(U+) 3033 3035 3034
    用例
    Unicode 3.2

    一口に"Unicode"といっても、実はこれにもバージョンがあり、一般によく普及しているVer.2.0よりも3.2の方が表示できる漢字・記号が多くなっています。ここでは、その中でも特に日本思想史の論文やレジュメで使……わなくても別にいいけど、ないよりはあった方がいいかもしれない記号をいくつか紹介します。ただし、『今昔文字鏡』と同様に、Unicode3.2対応のフォントがインストールされていなければ表示できずに文字化けしてしまいますので、注意が必要です。

    Unicode 3.2 コト点 二の字点 ヨリ点 白抜き点 
    画像
    テキスト
    Unicode番号(U+) 30FF 303B 309F FE46
    用例    

    なお、よく使われるMS明朝のVer.3.2はOffice2004以上に同梱されています。Unicode3.2対応フォントについては下記のサイトを参照のこと。

    北海道立衛生研究所 --> Unicode3.2用フォントの種類

    今昔文字鏡

    別のページでも解説した漢字入力支援ソフト『今昔文字鏡』(単漢字8万字 TTF版)は、漢字以外にも様々な文字を表示させることが出来ます。中には、現時点ではUnicodeで表示させることの出来ない約物も若干含まれています。それが、管見の限り「トキ点」と「トモ点」です。ただし、下掲の画像を見てもらえば分かると思いますが、フォントとしていまいち美しくありません。また、非常によく使われる「シテ点」が「シメ点」(〆)と混同されており、使い物になりません。文字鏡フォントは互換性にやや問題もあり、また「トキ点」「トモ点」「シテ点」は仮名に改めてもよいという慣例も確立していますから、無理して文字鏡フォントで表示させるまでもないでしょう。ただし、フォント好きの管理人としては何とかして美しく表示させたいところですので、何かよい表示方法をご存知の方は是非ご一報ください。

    今昔文字鏡 トキ点 トモ点
    画像
    テキスト
    (文字鏡フォント必須)
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