漢字

    レポートやレジュメで正体字を使うことの当否について

    正体字を非常に効率よく入力する方法はいくつかありますが、どれも完璧ではありません。僅かな不具合が生じることもあります。ごく短いレポートや読書会レジュメで、それも引用箇所や漢文(白文、訓読文)でのみ正体字を使うのであれば、その生じた「若干の不具合」を一つ残らず見つけ出し、一つ一つ修正するということも容易です。

    しかし文章が10,000字以上の長大なものとなり、しかも正体字を使用すべき箇所(たとえば引用文、漢文など)が複雑に散在するようになると、生じた「不具合」を一つ残らず見付け出し、一つ一つ修正するということはかなりの手間になります。最初のうちはそうでもなくとも、提出や発表の直前ともなると漢字のごく些細な異同などに気を配っている余裕はなくなり、必ず何らかの「不具合」を残してしまうことになります。

    ですから、卒論や修論などの学位論文、紀要や学会誌への投稿論文など、あなたの研究者としての評価に影響するような文章で正体字を使うのは控えた方が無難でしょう。ただ、俗体字(所謂「新体字」)すらも存在しないような、他にどうしようものないものくらいは次に解説する「今昔文字鏡」で入力するしかありません。

    「今昔文字鏡」

    後述するように「日本語フォントでは俗体字でしか表示できない」ということでしたら、まだ「マシ」な方です。読者諸氏も経験があるかもしれませんが、引用したい文章中に「外国語フォントをもってしても、俗体字ですら表示することが不可能な字」が含まれていることがあります。そういった場合、レジュメにペンで直接書き込んだり、あるいは篇や旁など字の構成を註で説明したりする人が多いようですが、やはり活字として表示・印刷できればそれに越したことはないでしょう。

    そこで絶大な威力を発揮するのが「今昔文字鏡」です。この「今昔文字鏡」なら、例えば「漢」の一字にしても、正体字や俗体字だけでなく以下のように数多くの異体字を表示・印刷することが可能です。現在は単漢字16万字版がリリースされていますが、画像は単漢字8万字収録のTTF版です。

    漢字は造りの一部または読みから検索することができます。上の画像は「漢」の旁を含む漢字を検索したものですし、「うたがう」という読みで検索すれば「疑」などの漢字が引っ掛かります。また、「文字情報」では『大漢和』の該当巻数、ページ数が表示されます。

    ただし、この「今昔文字鏡」の使用に当たっては次の2点に気を付けなければなりません。

    第1に、「今昔文字鏡」が扱うのは画像でなくあくまで文字フォントであるため、入力はもちろん、表示や印刷も「今昔文字鏡」がインストールされているPCでしか行うことができません。そうでないPC、例えばコンピュータ室などのPCでは「今昔文字鏡」で入力した文字のみ全く異なる別の字に化けてしまいます。

    第2に、PCに「今昔文字鏡」(のフォント)がインストールされていたとしても、レーザープリンタで印刷しようとすると文字化け(空白)になってしまうことがあります。この問題とその対処法については「睡人亭」の「JIS X 0208 に収録されていない文字列を、文字化けせずに正常に印刷する方法」をご覧ください。……ですが、最近のプリンタではそういう不具合は生じないのかも知れません。

    「今昔文字鏡」にはこれらの短所もありますので、漢字の検索などには大いに活用しつつも、入力ではなるべく頼らないようにするというのが一番賢い使い方だと思います。ですから、「検索結果」から使いたい漢字を見つけても、「クリップボードへコピー/E」ではなく「形式を選択してコピー/S」を使った方がよいです。ではどの形式がよいかというと、「テキスト(T)」なら互換性100%、「Unicodeテキスト(U)」でも多分大丈夫でしょう。どっちもダメだったとき、そこではじめて「クリップボードへコピー/E」を選択し、文字鏡フォントを使うとよいでしょう。

    正体字の簡単入力方法 for Word

    「Q漢字 for Word」

    さて、世に俗体字を正体字を変換してくれるツールは数多くあります。しかしながら、それらのほとんどはtxt(テキスト)形式しか相手にしてくれず、書式の保持や範囲指定ができないのでWordでレポートやレジュメを作るにはあまり使い勝手が宜しくありません。

    そこでオススメはこれ、Word用マクロ「Q漢字 for Word」。明香山観音院東谷寺という寺のIT坊さんが作ってくれたものらしいです。

    東谷寺のサイトVectorからダウンロードし、インストールしてください。「Q漢字+ for Word 2007 ver.2.1 (Word 2007 専用版)」は、2013でも大丈夫みたいです。インストールのためqkanji210.exeを実行して「Word2007がインストールされていませんのでインストールを中止します」というエラーが出てしまうことがありますが、その場合はqkanji2007.dotmを直接
    (ユーザー名)\AppData\Roaming\Microsoft\Word\STARTUP
    に入れれば上手くいきます。入れればもうそれだけでインストール完了です(qkanji210.exeを再実行する必要はありません)。

    ただし、「Q漢字」による変換には2つの問題点があるので注意が必要です。あまり大したことでないような気もしますが、意外と大したことだったりします。

    第1に、「Q漢字」が引用しようとしている資料の通りに変換してくれるとは限らない、ということです。ですから、「Q漢字」が一括変換してくれたからといって油断せず、必ず変換された文字列と原文とを見比べてみてください。もっとも、引用した文章に一字一句の誤りもないかどうか目を皿のようにして調べるということは、どんなツールを使うにせよ使わないにせよ当たり前のことではあります。

    第2に、日本語のフォントでは表示できる正体字にも自ずと限界があります。前掲の画像の場合ですと、「」の字の正体字は「」のはずですが、変換されていません。これは「Q漢字」の欠陥や怠慢ということではなく、そもそも日本語のフォントでは「」を表示することが不可能なのです。このような例は他にいくらでもあり、「」の正体字「」も表示できません。

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